大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)622号 判決

上告人

埼玉信用保証協会

代理人

木村長次

木村一郎

被上告人

高柳宣和

代理人

山本政喜

生天目厳夫

徳田靖之

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人木村長次、同木村一郎の上告理由について。

三和縫製株式会社(以下三和縫製という。)が、埼玉県信用金庫(以下信用金庫という。)から日歩利息二銭八厘、借入期間一八〇日の約定で三〇万円を借り入れるにあたつて、上告人が、昭和三五年二月三日被上告人と連帯して三和縫製の信用金庫に対する右貸金債務の支払を保証したこと、上告人が右保証債務の履行によつて将来取得することあるべき求償金債権につき、被上告人は、三和縫製と連帯して上告人に対し日歩七銭以内の割合による損害金を付加して支払うべき旨の約定をしたこと、ならびに三和縫製が信用金庫から借り受けた三〇万円の支払期日を徒過したので、上告人が昭和三五年一一月九日信用金庫に貸金元利金三〇万一四四七円を支払つたこと、したがつて上告人が三昭縫製および被上告人に対して同額の求償金債権を取得したことおよび右の債権がいずれも商行為によつて生じたものであること、五年の商事時効は両債権につき遅くとも昭和三五年一一月一一日より進行を開始したこと、上告人が、三和縫製に対し前記求償金の支払を求めるため、浦和地方裁判所に訴を提起し、昭和三六年八月八日勝訴の判決を得たこと、右判決が同年九月五日の経過とともに確定したこと、以上の事実は原審の適法に確定するところである。

右事実によれば、右訴の提起によつて、上告人の三和縫製に対する右求償金債権の消滅時効は中断され、右債権は、右判決確定の日の翌日である昭和三六年九月六日から、さらに一〇年の時効期間に服することになつたことが明らかである。そして、民法一七四条ノ二の規定によつて主たる債務者の債務の短期消滅時効期間が一〇年に延長されるときは、これに応じて連帯保証人の債務の消滅時効期間も同じく一〇年に変ずると解するのが、当裁判所の判例(最高裁昭和四三年(オ)第五一九号同年一〇月一七日第一小法廷判決、裁判集民事九二号六〇一頁)であるから被上告人の上告人に対する本件債務が、三和縫製の上告人に対する求償金債務についての連帯保証債務であるとすれば、同じく昭和三六年九月六日から一〇年の時効期間に服することになるわけである。

ところで、原判決は、主債務者の債務を弁済した保証人の一人に対する他の共同保証人の求償金債務は、別段の特約が認められないかぎりこれを主債務者の求償金債務についての保証債務とは解しえないことを前提として、本件については、被上告人は信用金庫に対する関係では上告人とともに三和縫製の共同保証人であるところ、甲第一号証によつては、右の別段の特約があるものとは認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はないので被上告人の本件債務は、三和縫製の上告人に対する求償金債務についての保証債務とは解しえず、結局、本件債務の消滅時効期間は一〇年に変じない旨判示している。

しかしながら、甲第一号証は、三和縫製が信用金庫から三〇万円を借り入れるに先だち、上告人に対してその信用保証を委託した際に作成された信用保証委託約定書であり、三和縫製が債務者(被保証人)欄に記名捺印し、被上告人が連帯保証人欄に署名捺印して上告人宛に作成したものであるところ、同約定書に記載された約款によれば、右の連帯保証とは、上告人が三和縫製に対して将来取得する求償権を担保するためのものと解するのが自然であり、原判決の判示するように、甲第一号証の運帯保証人の字句は上告人の保証により三和縫製が融資を受けようとする信用金庫との間の貸借について用いられているものであつて、上告人との間の求償関係について用いられたものではないと認定することには、首肯しがたいものがある。

すなわち、約款第六条には、「被保証人は協会より請求あれば何時でも本約款により協会が将来取得する又は既に取得した求償権を担保するために協会の指定する被保証人所有の物件に担保権を設定することは勿論連帯保証人の追加又は火災保険或は其の他の損害保険契約並に質権設定を請求された場合は直ちに之に応ずるものとする。」とあり、そのうち「将来取得する又は既に取得した求償権を担保するため」の「担保権の設定」「連帯保証人の追加」というのは、三和縫製に対する上告人の求償権を担保するための条項とみるほかなく、原判決のように、信用金庫に対する三和縫製の主債務の支払を担保するための連帯保証人の追加等を約したものとみるのは、「既に取得した求償権を担保するため」との文言に牴触し、到底これを是認するわけにはいかない。また、同約款第八条一項は、「被保証人の連帯保証人は、協会が被保証人に対し将来取得することのある求償権及び第二条の定めるところにより生ずることのある協会の被保証人に対する一切の債権について、被保証人と連帯し、且つ、保証人相互の間に連帯して弁済の責に任ずるものとする。」とあり、そのうち「第二条の定めるところにより生ずることのある協会の被保証人に対する一切の債権」というのは、本件についていえば、上告人と被上告人である三和縫製との間にのみ生ずる求償権に付随する債権を指すのであるから、被上告人がこれにつき連帯して弁済の責に任ずるというのは、連帯保証債務を負つた趣旨とみるのが、右条項の文言に沿う見方である。なるほど、約款八条第三項には、「連帯保証人は自ら保証債務を履行しても協会に対し求償権を行使しないものとする。」とあり、その趣旨は、連帯保証人が自ら保証債務を履行して協会に対して求償権を取得する場合のあることを考慮した条項であるが、約款全体の趣旨からみると、被保証人の協会に対して負担する求償金債務につき連帯保証をした者が、金融機関に対する関係においても協会とともに共同保証人となる場合が十分に予想されるので、その場合に連帯保証人が保証債務の履行をしても協会に対する求償権を行使しないことを約したものと解すべきである。

このように、甲第一号証に記載された約款によれば、被上告人は、上告人が三和縫製に対して将来取得する求償権を担保するために連帯保証を約したものとみるのが合理的な解釈であつて、他に別段の事情の認められないかぎり、これを別異に解すべきではない。それにもかかわらず、原審は前述のように、他に首肯するに足る根拠を示すことなく、被上告人の本件債務は三和縫製の上告人に対する求償金債務につき連帯保証を約したものとは解しえないとして、上告人の消滅時効期間が一〇年に変じた旨の主張を排斥し、ひいては上告人の本訴請求を失当として棄却すべきものとしているのである。それゆえ、原判決の右判断は、甲第一号証に記載された約款についての解釈につき経験則違背ないしは理由不備の違法があり、これが判決に影響を及ぼしていることが明らかである。したがつて、この点に関する論旨は理由があるから、原判決は破棄を免れず、前叙の点についてさらに審理する必要あるものと認め、本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条一項の規定に従い、裁判官の全員の一致により主文のとおり判決する。(岡原昌男 色川幸太郎 村上朝一 小川信雄)

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